ヘルマート変換で網平均
網平均計算

 さて、みなさんは基準点測量の網平均ソフトをお持ちでしょうか。ほとんどの人はお持ちでないでしょう。持たなくても、調査士業務ソフトに付随している「トラバース測量」の計算で単路線の簡易水平網の計算はできますが、結合多角路網の平均計算はできません。

 そこで、そのような網平均計算ソフトがなくとも、厳密水平網平均計算に匹敵する精度で新点位置を決定する方法を紹介しましょう。

計算例
 計算例で説明した方が解りやすいので、日本測量協会発行の「基準点測量計算範例集(H10.9.30版)」の例(1級基準点測量)を基にします。
既知点成果および観測値

 3等点を既知点とし、新点2点を設置します。
 各既知点においては方向角の取付を行っていません。

 範例集では広尾に偏心がありますが、説明を簡単にするため偏心はないものとして説明します。

 また、成果は旧日本測地系で、投影補正はジオイド面に行っています。

 距離の補正計算の過程は省略しています。

 

 



既知点成果
点名
標高
広尾
5029.510
28898.460
37.150
浅川
3063.790
29735.470
33.850
上野山
2846.920
27668.590
36.270
新点の厳密水平網平均結果
(1)
4299.168
28740.254
23.180
(2)
2973.109
28647.839
33.946

 

 

 


 

 

観測値(距離補正後)
測点
方向
(1)
広尾
(2)
 
水平角
0-00-00
171-45-49
 
距離
747.281
1329.274
 
 
測点
方向
(2)
浅川
上野山
(1)
水平角
0-00-00
177-25-24
278-45-13
距離
1091.408
987.357


 

 

 

 

 

 

距離は座標平面上の距離です。

ローカル座標計算
点名
仮座標X
仮座標Y
広尾
5047.281
32000.000
浅川
3303.352
33234.203
上野山
2653.768
31260.088
(1)
4300.000
32000.000
(2)
2984.437
32190.428
 上記観測値を用い任意の座標系で各点の座標を計算します。

 ここでは、便宜上(1)の仮座標を
  X=4300.000 Y=32000.000とし、
 (1)から広尾方向の仮方向角を0として計算しています。

ヘルマート変換(点検計算)

 既知点、広尾、浅川、上野山を変換基準点とし、伸縮率1、いずれか1点(例では浅川)の重量を500に設定して、 ヘルマート変換を実行します。

 変動量の欄に注目します。
 広尾、浅川の変動量が、国交省公共測量作業規程第41条運用基準の水平位置の許容範囲内にあることを確認します(この場合は1級の結合多角の欄を適用)。

 
さて、以上の作業は何を行っているのでしょうか?

 浅川の重量を500にすることにより、浅川の変動量が0になります(0にならない場合は、重量を大きくしてください)。
 つまり、浅川を固定したときに広尾、上野山がどれだけ変動するかを点検しているのです。これにより、観測値の点検とともに既知点の異常の有無を点検します。

 基準点測量の点検計算に相当しますが、変動ベクトルが点検計算とは異なります。この辺りのことはヘルマート変換の性質からご理解ください。

 変動量が前述の許容範囲内にあれば、次に進みます。範囲を超えた場合は、観測に誤りがあるか、既知点の成果が悪いということになります。

ヘルマート変換(平均計算)

 次に、浅川の重量を1に戻し伸縮率1の設定をはずして、再度変換計算を実行します。


変換後の(1),(2)の座標が求める新点の位置となります。

伸縮率を1に設定して変換すると、次のようになります。

 伸縮率を1に設定した場合は、観測値(距離)重視となり、変換前の位置関係と変換後の位置関係は合同になります。

 伸縮率を1に設定しない場合は、距離にだけ補正がかかり、変換前の位置関係と変換後の位置関係は相似になります。ヘルマート変換の性質により角度は変化しません。

 どちらを採用するかは、配点関係、残差等を考慮して各自で判断してください。

 変換後の既知点の座標は、「1点1成果」により使用することはできません。従って、既知点と新点を結ぶ辺については、距離と角度に残差の分だけ観測値に誤差が生じます。

 既知点を4点以上使用する場合は、アフィン変換が使えます。どちらを使用するかは、それぞれの変換特性を理解の上使用してください。なお、3点でのアフィン変換は、2点のヘルマート変換と同様行わないでください。 え? 使えないならなぜ使えるようにしたかって? 実はこれらの変換を十分に理解している人にとっては、利用価値があるのです、はい。

 アフィン変換を行った場合は、長方形が平行四辺形に潰れるような変換が行われます。その分、既知点との整合性がよくなります。逆に、観測値とのズレは大きくなります。

変換結果
 さて、変換結果を厳密水平網平均結果と比較してみましょう。
 
(1)
(2)
厳密水平網平均結果
4299.168
28740.254
2973.109
28647.839
ヘルマート変換(伸縮率Free)
166
257
109
836
ヘルマート変換(伸縮率1)
165
257
110
837

 厳密水平網平均と数mmの違いです。当然のことですが、既知点の精度がよいほど良好な結果が得られます。もっとも、正確な観測が前提ですが。

 この方法は 作業規程にも調測にもありませんので、使用する場合は十分な検証を行ったうえ、各自の責任においてお使いください。

標準偏差について

dX、dYの標準偏差については、単位重量の標準偏差で、それぞれ
   √(Σ(p*dX^2)/(n-1)),√(Σ(p*dY^2)/(n-1))
    [p:重量 n:変換基準点の数 m:ヘルマート変換のとき 4  アフィン変換のとき 6]
で求めています。

変動量の標準偏差については疑問のあるところでして、よく分からないので今のところ、
   √(Σ(p*dX^2+p*dY^2)/(2n-m))
で求めています。

多角網について
 ご紹介した方法は、多角網の中で環を形成しないことを前提としています。網の中に環がある場合は、予め環の閉合差を補正しておいてください。ただし、複数の環がある網については、正規の網平均を行わなければならないでしょうね。