VRS+TS+ヘルマート変換で世界測地系を作る
VRS観測値の特性

 図は、VRS観測において同一点で10秒間隔で30分間取得したデータの、平均値の回りの分布状況をグラフ化したものです。横軸が時間、縦軸が平均値からの変動量を表します。 また、紺、ピンク、黄の横線は、同一におけるスタティック観測値のVRS観測値とのずれを表します(基準はVRS観測の平均値)。

  このような検証は、VRSを導入される際には、みなさんなされていると思いますが、観測値は常に変動していることが分かります。

 変動量は、ジェノバさんによれば、概ね3σで3センチとのことですが、この観測ではそれよりも良い成果が出ています。この観測においては、VRS観測値の平均値は、スタティック観測値と比較して、Xで1.6センチ、Yで0.7センチ、Hで1.5センチの差が出ていますが、これについては、例えば24時間程度の長時間の観測を行えば、スタティック観測値に近づくと思われます。

 グラフの中程に、平均値から大きくはずれた値が観測されていますが、恐らくマルチパスの影響と思われます。VRS観測に限らず、GPS測量においてはマルチパスに十分注意しなければなりません。

 この観測により、VRS観測値には次のような特性があると言えます。
 1.観測値は時間とともに変化する。
 2.変化量は平均値から概ね数センチである。
 3.スタティック観測値と比較して、数センチの誤差がある。
 4.マルチパス等の影響により、値が大きくはずれることがある。

VRS観測の利用法

 VRS観測値の利用は、以上の特性を理解したうえで行えばよいことになります。つまり、数センチの誤差を許容する測量に使用できるということです。
  しかし、スタティック観測値に対して数センチの誤差しかないという点に注目してみましょう。

 ご存知の通り、基準点測量における新点の位置誤差の制限は、標準偏差(1σ)で10センチとなっています( もっとも3,4級点でこの標準偏差てば使い物になりませんが)。
 VRS観測値の特性は上記の通りですので、単純にいえば単点観測においてもその制限を十分満足しているということです。これについては、数々の検証で実証されているところですが、残念なことにお上には認めていただけません。
  VRSを使った基準点測量については、既にマニュアルが出ているところですが、「基準点測量」と聞くだけで、多くの調査士さんは尻込みされるでしょう。

 そこで、お上には認めていただけないけれども、基準点測量に匹敵する成果を上げる方法を提案いたします。

ヘルマート変換

 「VRS観測(単点)で、現地に点を落としたのはいいが、点間をTSで観測すると距離が合わない。仕方がないので、1点は方位標として使っている。」というような話がネット上にありました。 VRS観測値の特性からすれば、TSで観測した点間距離と一致しないのは当然のことです。一致しないといっても、数センチ程度なのですが、境界測量を行ううえでは、この数センチというのは微妙な数値です。


 そこで、どうせVRS観測をするのであれば、数点(最低3点以上、多いほどよい)観測し、その点をTSでも観測しましょう。境界測量では、最低でも器械点を2点は設置するでしょうから、余分にもう2点ほど設置しましょう。

 図の左側の黄色点は、測量対象地の回りにTSにより設置した多角点だと思ってください。観測方法は、放射法でもいわゆる閉合トラバース法でもかまいません。
  右側の青色点は、TS観測点をVRS観測点した点です。

  TS観測の各点の座標を任意のローカル座標系で計算します。VRSで観測により、その結果から得られるY座標、楕円体高からTSの観測距離を補正し、座標平面上(ローカル座標系であるが公共座標系とみなす)で計算します。これで、座標は異なりますが、座標平面上に相互の位置関係はせいぜい数ミリしか違わない「基準点」ができあがります。

 VRS観測(基本は、時間を変えて2セット)によって得られた座標値は、世界測地系上で数センチの誤差を持っています。つまり、相互の点間距離(当然上記の補正を行う)をTSで観測しても、最大数センチの誤差があります。

  この、数ミリの誤差のローカル座標系と数センチの誤差の世界測地系を融合させるのがヘルマート変換です。ヘルマート変換により、世界測地系上では数センチの誤差であるけれども、局所的(器械点間相互の距離)は数ミリの誤差を持った座標系ができあがります。
  ヘルマート変換に関しては、ネット上に多くの文献がありますので、それを参考にしてください。

 数センチの誤差と聞くと、多くの調査士さんは「えっ?そんなに誤差があるなら使えない」と仰いますが、よく考えてみてください。遠くの既知点から基準点測量を行い現地に新点を設置したとき、その新点の位置誤差はどの程度だと思われますでしょうか。

 さて、ヘルマート変換ですが、変換時に「伸縮率」を1に設定しておくことが必要です。でないと、「基準点」相互の位置関係が崩れます。

 実はサンプルファイルの「sample.sim」は、この変換方法の実例です。 T0,T1,G1.G2,G3,G4,G5の各点はTS観測値(画面プロットの関係でVRS観測値に近い値のローカル座標にしています)、VT0,VT1,VG3,VG5,VG6の各点はVRS観測点です(天空障害により全点の観測は不能)。VT1-2は説明のために創作した点です。

 VRS観測点をなるべく多くというのは、この例のG3のように変換誤差が大きい(測量の目的により大小を判断)点は変換基準点からはずすことになりますが、VRS観測点が少ないと変換基準点の数が足りなくなることを防止するためでもあります。

 この方法は、お上の「作業規程」にも、調測にも載っていない方法ですので、十分検証のうえ、自己の責任においてご使用下さい。

1点を固定したい場合

 さて、VRS観測点の中に電子基準点に基づくスタティック観測点があるような場合、その点を固定したいときがあります。
  また、別に「ヘルマートで網平均」の項でも述べますが、厳密網平均やGPSの3次元網平均で使用する「仮定網平均」のような使い方もできます。

 そのようなとき、その観測点(変換基準点)の重量(重み)を極端に大きくします。本来、重量は厳密に決定すべきものですが、ここでは特殊な使い方ということで「適当」に重量を決めます。

 固定したい点の重量を大きくします。

 

 

 

 

 残差が0とならない場合は、重量をさらに大きくしてください(最大1000まで)。
  計算後の変換基準点の座標と変換後の座標が一致します。
  つまり、重量を大きくした変換基準点を中心として、他の点が回転することになります。